薬丸岳おすすめ作品7選!人間の心理を繊細に描くミステリー作家!

更新:2021.11.24

犯罪の周りにうごめく人間の心理にスポットライトを当てた作品を書き続けている薬丸 岳。作品ごとにテーマは違いますが、薬丸作品は、登場する被害者家族、加害者、友人、捜査に当たる刑事、個々の感情の動きを丁寧に表現しています。

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少年法、刑法39条、前科者、犯罪者の家族、重いテーマで読者を惹きつける薬丸岳!

1969年生まれのミステリー作家、薬丸岳は、高校卒業後、俳優を目指して劇団に入団するも数ヶ月で退団します。その後、バーテンダーや旅行会社勤務など数々の職に就いた後、2005年、『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞して鮮烈なデビューを遂げました。

“女子校生コンクリート詰め殺人事件”に衝撃を受け、独学で少年法を勉強して書き上げたという同作品以後も、意欲的に難しいテーマに挑み、次々と秀作を発表。今や日本を代表するミステリー作家と言えます。

人間の持つ悲しみをあらゆる角度から書き続ける薬丸作品。その巧みな描写で、読者の頭の中で登場人物の動きが細かく再生されるのは、子どもの頃から映画好きだったゆえに培われた、彼のセンスと観察眼によるところが多いのかもしれません。

「映画と小説が自分の学校だった」と言う薬丸が次に挑むテーマは何なのか、読者は常に楽しみにしているのです。

薬丸岳の衝撃的デビュー作!

最愛の妻を殺害されてからの4年間、コーヒーショップの店長として働きながら男手ひとつで遺された娘を育ててきた桧山。大きな憎しみを抱えながらも、彼には犯人のことを詳しく知ることは許されませんでした。妻の命を奪った犯人が、当時13歳の少年3人だったからです。

持って行き場のない憎しみを抱えながらも4歳の娘と共に生きていくことが第一で、ようやく落ち着いた生活ができるようになった彼でしたが、突如として、謂われのない疑いを持たれることになります。桧山の妻を殺しながらも、少年法に守られて生活していた3人の少年が次々に襲われ、なんと2人は亡くなってしまったのです。誰が考えても、3人を殺す動機を持っているのは、桧山に違いありません。
 

著者
薬丸 岳
出版日
2008-08-12


周りが信用できず、自ら解明に動き始めた桧山。幾重にも張り巡らされたベールをひとつひとつ剥がしていくうちにもたらされた残酷な真実とは?

少年法の是非を巡る考えの違い、どこまでが更正と言えるのか、生きている以上いつ誰が被害者、あるいは加害者になるのかわからないのだ、と様々なことを考えさせられる作品です。

自分の中の悲しみ・憎しみにばかりとらわれていた主人公に、異なる位置から眺めることを余儀なくさせた作者の優しさに感動させられます。これがデビュー作とは驚くばかりです。

刑法39条が守るものは何?

娘を殺害された元夫婦。犯人は、統合失調症ということで責任能力なしとみなされ、たった4年で出所します。

街で偶然犯人を見かけた元妻は、精神的に追い込まれ、次第に幻覚や妄想が増えていきます。かつては妻を支え切れず、離婚という選択をした主人公でしたが、今度こそは必死に妻を守ろうとする姿に胸を打たれます。
 

著者
薬丸 岳
出版日
2011-05-13


この作品では、映画の主題になったこともある“刑法39条”をモチーフに、被害者の家族のやるせなさを描いていますが、ただ批判のみではなく、読者に刑法39条について考える機会を与えてくれているのです。

壮絶なストーリーでありながら、ラストでは未来への希望の予感を持たせる作品です。

優しい兄がなぜ事件を起こしたのか?

兄とともに養護施設で育ち、自分の育った施設で保育士として働いていた美恵子。いつもそばで守ってくれた優しい兄の裕輔でしたが、ある日突然、その兄が事件を起こし、自分のもとから離れていったのです。
 

著者
薬丸 岳
出版日
2014-07-15


優しい兄がなぜ事件を起こしたのか?自分達の両親はどんな人だったのか?今まで知ろうとしなかった事実を探り始める美恵子。

虐待、いじめ、親の愛、と今の世の中に潜んでいる問題に真摯な姿勢で向き合った作品に、一気読み必至です。

たとえ親がいなくても自分のことを本気で愛してくれる存在に守られていれば、人は生きていくことができるということを実感させられます。

夏目刑事のまなざしに魅了されずにはいられない!

およそ刑事らしくない夏目が捜査する事件にまつわる7つのストーリーを収めた連作短編集。どの事件に対しても穏やかなまなざしで当たっていく夏目は、固くなった犯人の心まで解きほぐしてしまいます。

年齢から言えばベテランでもおかしくない夏目ですが、実は刑事としては新米。なぜなら、彼は少年鑑別所の法務技官だった前職をなげうって刑事へ転身したからです。罪を犯した少年の心理を調査する職から人を疑わねばならない職へ夏目を転じさせたものとは?
 

著者
薬丸 岳
出版日
2012-06-15


事件を通して、実は夏目が背負った運命との闘いを描いた作品です。穏やかな夏目の、内に秘めた怒りや深い悲しみとは?出会っていく人々の気持ちを揺さぶりながら、最後には夏目自身が深く関わっている事件の犯人がクローズアップされます。

優しい人こそ、自分に厳しいのだということを再確認でき、夏目刑事のファンになる人も多いでしょう。

心とからだ、どっちを殺したほうが悪いの?

うかつに面白いと言ってはいけないような重い内容のストーリー。しかし、確実に引き込まれていくのです。

もし、愛する自分の息子が殺人犯だとしたら・・・?子を持つ親がこの本を読むと、誰でも自分の身に置き換えて考えてしまうでしょう。とうてい簡単には答えが出るはずもないのですが、だからこそ、怖くても、ページを進めずにはいられなくなるのです。

突然訪ねてきた刑事から、妻との離婚で離れて住む息子が死体遺棄事件で逮捕されたことを知らされた吉永は、仕事も変え生活も困窮する中で、息子に起こった出来事の真実を探るために動き始めます。口を閉ざしてしまった息子から言葉を引き出すために吉永が選んだ方法は、刑法10条『付添人制度』のもと、自らが息子の付添人となることでした。
 

著者
薬丸 岳
出版日
2015-09-16


父の思いに応えてようやく重い口を開いた息子が発したのは「心とからだと、どっちを殺したほうが悪いの?」という問いでした。あなたなら、どう答えますか?

人の命を奪ってはならないのは当たり前です。でも、それ以上に、法では罪には問われなくても人の心を奪うことの多い現代社会。心を奪われた時に何もできることはないのか、という作者のやりきれない気持ちが伝わってきます。

 

友が背負った十字架

もし、あなたの友達が大罪を犯した罪人だったなら。あなたは、それでも友人として付き合っていけますか?

薬丸岳著作、『友罪』はそんな衝撃的なテーマの元執筆された作品です。

主人公の益田純一は、就職した町工場で、同期の鈴木秀人と知り合い、共に働くこととなります。どこか陰のある鈴木に近寄りがたい印象を覚えていた純一ですが、ひょんなことから打ち解けあい、ついには友情を築き上げるまでに至りました。

そんなある日、純一はたまたま見つけた写真に既視感を抱きます。14年前、日本全土を震え上がらせた凶悪少年犯罪「黒蛇神事件」。その犯人、青柳健太郎とされる人物は、恐ろしい程、鈴木秀人に酷似していたからです。

鈴木は青柳なのか? こびりついた疑問を拭えず、やがて事態は取り返しのつかないことに……。

著者
薬丸 岳
出版日
2015-11-20

本作における重要なキーワード、それはずばり「過去」です。誰もが積み重ね、逃れようのない過去。『友罪』ではそんな過去の中でも、とびきり重苦しく、拭い去れない記憶を背負った人々が集い、それぞれ向き合っていくこととなります。

いじめに晒されていた同級生を見捨てた者、恋人に唆され裏ビデオに出演してしまった者、そして凶悪犯罪に手を染めてしまった者。どの過去も凄絶で、目を覆いたくなる程悲惨なものばかりです。ですがそれでも心折れず、自分なりに答えを見出して前を進んでいく彼らの姿を目にした時、きっと読み手の側にも強く響いてくるものがあるでしょう。

そして、本作で最も見逃せないポイントは、純一と鈴木の友人関係です。作中のある出来事をきっかけにして、互いに友人と呼びあえる程仲を深めた2人。しかしその関係は、運命の悪戯か悪魔の采配か、徐々に狂い出していくことになります。

絆とは何か、友情とは何か。そして、罪人を友と呼ぶことは悪なのか? 過酷な現実に翻弄される中、2人が出した答えは涙と無念無くしては読めないでしょう。

現代社会の病巣、その一端を切り取った珠玉の作品。結末はぜひ、あなた自身の目で確かめてみて下さい。

薬丸岳の最新刊!人生の価値とは!?

59年の人生の半分以上を刑務所で過ごした片桐が、4度目の服役を終えて出所してきたところから物語は始まります。片桐と人生のどこかで関わりを持った5人の視点から展開される物語です。

顔に豹柄模様の刺青をしている上に前科者である片桐は、どこに行っても迷惑がられ受け入れてもらえません。それでも、幸せだった若い時代を共有した菊池は、片桐が起こした最初の事件が自分の妻をかばってくれてのことだったこともあって、なんとか今度こそ片桐が立ち直るようにと願います。

今回の服役につながる事件の際に片桐を担当した若い弁護士も、片桐とその娘が再会を果たせるよう力を尽くします。

そんな2人の思いを理解しながらも、出所してきた時から、片桐にはある覚悟があったのです。
 

著者
薬丸 岳
出版日
2016-07-08


読み進めながら、どんなに真面目で誠実な人でも、ほんのちょっとしたことから歯車が狂い始めることがある怖さを感じずにはいられません。

傍からはどんなに過酷な人生に見えても、自分の大切な人の為に何かができたなら、意味のある人生だったと言えるのかもしれない、人生の価値は人が決めるものではないんだと思わされた作品です。

デビュー作から一貫して犯罪に翻弄される人間を描いてきた薬丸岳。彼は、被害者の持つ一方的な憎しみだけではなく、罪を犯さずにはいられなかった者の悲しみ、そして憎しみを昇華させて前へ進もうとする者の姿をも丹念に描き、読む人の心をとらえています。薬丸作品を読む度に、どれだけのエネルギーを込めて書いているのだろう、と圧倒されてしまいます。多くの方に読んでいただきたい作家です。

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