上杉謙信は女だった?漫画から史実に基づく小説までおすすめ5選

更新:2021.12.16

義を重んじる軍神というイメージがありファンも多い、武将上杉謙信。戦上手にもかかわらず、実は女性だったという話も浮かぶほど穏やかな人物でした。そんな謙信を知るおすすめ小説5冊をご紹介します。

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「義」に生きた軍神、上杉謙信

謙信は、1530年に越後の長尾為景の息子として生まれました。長尾家は上杉家を補佐する家柄でしたが、為景の下剋上の精神から何度も反乱をおこし、謙信はそんな父親とは仲が悪く、6歳の時に為景によって城下の林泉寺に預けられました。そこで住職の天室光育から、教養、禅、兵学などを学び、この時得たものがその後の謙信の精神を形作っていきます。

14歳で元服し長尾景虎となると、兄の晴景を助けるため城に入り、謀反を起こした敵方を倒し、見事初陣を飾ることとなった謙信。その後は、謙信を守護代に擁立しようという動きが大きくなり、19歳の時に晴景の養子となった上で家督を相続し、春日山城主となりました。

1552年、信濃の諸将の要請で武田信玄との川中島の戦いが始まりました。謙信は、この戦いを生涯続けながら、関東出兵、上洛などを行っています。北条家や織田信長とも攻防を繰り返していますが、謙信は負けることはほとんどありませんでした。1570年に北条氏康と和睦した後、41歳でついに上杉謙信と名乗ります。最後は1578年脳卒中で急死。毘沙門天への厚い信仰心から旗印には「毘」の文字を掲げ、常に義を重んじる戦いぶりでした。
 

上杉謙信の意外と知らない8つの事実

1:血液型はAB型だった

謙信が結んだとされる誓文に血判が残されており、血液判定をした結果AB型であったということがわかりました。

2:身長は156cmと小柄だった

遺品の甲冑の大きさから、身長は約156cmであったことがわかっています。当時の男性の平均身長は159cmほど。武将たちの中でも小柄でした。

3:刀コレクターだった  

謙信は刀を愛好しており、そのコレクションは、姫鶴一文字、謙信景光、小豆長光、山鳥毛一文字、五虎退など、名刀揃いだったと言われています。特に姫鶴一文字は明治天皇もお気に入りで、国の重要文化財に指定されています。

4:死因は高血圧?

謙信は毘沙門天を信仰していたため、食生活は「粗食」を心がけていました。そのためお酒を飲むときは、梅干しや味噌を肴にしていたそうです。塩分の過剰摂取によって高血圧になっており、それが原因で脳血管障害で亡くなったと言われています。

5:戦の前には大盤振る舞い

普段から倹約に努め慎ましやかな生活を送る謙信は、 戦の前になると贅沢な食事を用意させ、家臣たちに振舞いました。したがって彼の部下は、食事によって出陣の有無を知ったそうです。

6:左脚が悪く、戦場では杖を持ち歩いていた

謙信は7歳の時川に落ちて左膝を強打し、14歳頃には戦で左の内股に矢を受けています。その後左脚が気腫にも罹り、歩く際に脚を引きずっていたといいます。戦の時には杖の代わりに青竹を携えていました。

7:辞世の句は「四十九年 一睡の夢 一期の栄華 一盃の酒」

「自分の49歳の人生を振り返ってみると、ひと眠りする間の夢のようだった。1代で築いた栄華も、1杯のお酒ほどの楽しみでしかなかった」という意味です。

8:死後、ミイラのように安置されている  

1578年に亡くなった謙信は、甲冑を身にまとったままの姿で甕に納められ、さらにその中に漆を流し込んで固められて、まるでミイラのような状態で安置されています。現在は山形県米沢市にある上杉家廟所という墓所に安置されています。

虎千代から上杉謙信までの成長過程を描く

謙信の出生から第4次川中島の戦いまでという上杉謙信の半生を追う『天と地と』。NHK大河ドラマの原作にもなった名作です。前半は父親である長尾為景との確執やお家騒動が描かれ、その中で謙信がどのように考え成長していくのかが読み取れます。後半は川中島の戦いがメインとなり、上洛や北条家との戦い、関東管領職就任式などが盛り込まれ、クライマックスへ。謙信の人となりが伝わってくる物語です。

軍神、上杉謙信が作られる過程が丁寧に書かれています。作者は謙信の成長の様子、ひいては人間の成長ぶりを描きたかったのでしょう。父や兄との関係で苦悩しながらも義に生きる謙信が作られていく様子や、周囲で手助けしてくれる魅力的な人物に引き込まれてしまいます。
 

著者
海音寺潮五郎
出版日
2004-03-12

武田信玄が登場してからは、謙信と信玄との違いがクローズアップされ面白く読み進めることができます。川中島の戦いを武田側から書いた話は多いのですが、その逆はあまりありません。この本は上杉側から戦いが知れる貴重な本です。義を貫こうとする謙信の姿、そして各諸将との関係から目が離せず、終盤まで一気に読んでしまうことでしょう。

生涯独身を貫き、女性だったのではという話まである謙信ですが、この本には多くの女性が登場します。なぜ思い思われる女性がいながら結ばれなかったのか、どのような思いで独身であることを選んだのか。謙信について多くのことを考えるきっかけになる1冊です。
 

川中島の戦いにおける上杉謙信の義とは

歴史小説の巨匠、吉川英治作の『上杉謙信』は、第4次川中島合戦に焦点を置いています。謙信の生涯を追うわけではなく、短い期間の話なのですが、謙信の精神が良く分かる作品と言えるでしょう。

五回に渡る川中島合戦のなかで、一番の激戦だったとされる第四次川中島合戦の描写は素晴らしく、臨場感に溢れています。手に汗握る読書体験をすることができるはずです。

著者
吉川 英治
出版日
2015-01-24

上杉謙信というタイトルですが、武田信玄側のエピソードも多く登場します。信玄があってこその謙信だったということもよく分かり、謙信の義を重んじる性格がよりはっきりする作品です。上杉謙信が塩不足に悩む武田信玄側に塩を送ったことから来ている「敵に塩を送る」という言葉が有名ではありますが、それだけではなく、お互いを認め合っていた好敵手同士の二人の話には、まるで少年漫画を読んでいるような気持ちにもさせてくれます。

どの武将も格好良く思え、その中でも際立って謙信が格好良く思えるのは作者の腕でしょうか。読むと、謙信ファンになることだけではなく、戦国時代にどっぷり浸ることができる一作となっています。
 

上杉謙信が女性という前提で始まる物語

女性謙信の一代記を描く漫画『雪花の虎』をご紹介します。謙信は実は女性だったのでは、という話を聞いたことがあるでしょうか。生涯独身、小柄、月に一度腹痛を起こしていた、穏やかなどといった逸話から、そのような噂が伝えられています。そしてこのコミックは、謙信は女性であるというところから話が始まるのです。

男子が生まれると信じて疑わなかった長尾為景。しかし、生まれてきたのは女の子でした。そのとき為景は、その子を男の子として育てることを決心します。元服までさせる父と兄。その後謙信はどうなっていくのでしょうか。
 

著者
東村 アキコ
出版日
2015-09-11

単行本としては2017年1月現在4巻までしか出版されておらず、まだまだ歴史は始まったばかり。史実を追うように話は進んでいきます。なんとも美しく強い謙信に、男なのか女なのかと読者も惑わされてしまうことでしょう。ところどころに笑いが盛り込まれているのは、この作者特有の面白さです。4巻で史実を離れてきそうな動きがあるので、今後の展開を期待したいところです。

史実に基づいた歴史小説で上杉謙信の本心を知る

『武神の階』は、上杉謙信の誕生から死までという人生すべてをまとめた小説です。会話文があまりないので、歴史小説上級者向けと言えるかもしれません。しかし、謙信を知るためにはぜひとも読んで欲しい一冊です。

他の書籍で書かれる謙信とは少し違う謙信がここにいます。父親からは疎まれていたという話が多い中、父から愛されて育ち、母親も早世せず味方となってくれるのです。体格も通説とは違い大柄とされています。しかし、毘沙門天にすべてを捧げ、義のために生きるところは変わりありません。戦上手でありながら、勝っても領地を広げることもないのです。幼い頃から戦術に長けていましたが、普段の謙信は穏やかな女性のようであったともいわれています。
 

著者
津本 陽
出版日

毘沙門天から見捨てられないために、女性との関係も持たなかったということも謙信らしさを表しています。必ず悲恋で終わる謙信の恋。実際はどうだったのか、謙信がどう考えていたのかは推測するしかないですが、この時代に珍しく独身を貫いた理由に思いを巡らせてしまうでしょう。

謙信が、魂魄の残る死んだ家臣に対して諭す場面は、僧侶としての力量が分かるシーンです。軍神と呼ばれるほど負け知らずですが、 実際は仏門に入り静かに生きたかったのではないかと思わずにはいられません。この本を読み終えたときには、謙信について深く知ることができているはずです。
 

関東覇者を目指せ!それが上杉謙信の願いだった

『上杉謙信―信長も畏怖した戦国最強の義将』というタイトルの通り上杉謙信を主人公としているのですが、その前後の時代についても多くページ数をとってあります。視点が面白く、謙信が望んでいたのは関東覇者だというのです。この時代は東西に天下があったという考え方で、それを証明するために源平時代まで遡って記述があります。関東に平平和をもたらしたいということが、謙信の願いだったのかもしれません。

著者
相川 司
出版日

文章が平易で、時代背景を丁寧に書いているので、初心者向けの歴史書としての価値もあります。謙信が数多くの名前を持つのはなぜなのか、この時代に出てくる言葉についての説明など、今までちょっとした疑問に思っていたことがはっきりと分かることでしょう。なぜ独身だったのかについても見解が述べられています。

後継者、景勝や三郎景虎についてまで話は進み、関東管領は三郎景虎の方にしようと思っていたのではないかということです。結局後継者を決めないまま亡くなるわけですが、謙信としてはどのように考えていたかを史料に基づきながら知ることができます。関東にこだわった、謙信と景勝についてよく読み取れる一作です。
 

以上5作、いかがでしたでしょうか。上杉謙信という人物は知れば知るほど、義を重んじ潔い性格なので、この時代には見合わない人であったのかもしれないと思わされます。謙信を知ることで、より深く戦国時代についても思い巡らすことができるでしょう。

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